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動物実験で選び出された化学物質のがん予防作用が、ヒトでの研究でも十分に確認されたという例は、ほとんどないのが現状です。
反対に、多くの動物実験で有望視されていたのに、ヒトでの大規模な検証を行ったところ、効果が否定されたばかりではなく、喫煙者では害のある可能性すら明らかになったものがあります。
βカロチンのビタミン剤と肺がんの関係が、その例です。
ですから、「培養細胞や実験動物でがん予防作用があった」という話を目にした時には、「興味深い仮説」として、話半分に聞いておくのが適当です。
その食品を目指して店頭に走るのは、この段階では時期尚早。
われわれと同類の、ヒトでの研究を待つ必要があります。
ここまで、培養細胞や実験動物を使った研究で、栄養素や化学物質にがん予防作用があるというような、「利益」についての情報を判断する際の考え方を説明しました。
ところで、おなじつた研究でも、「利益」ではなく、「有害作用」についての情報を判断する際には、違った考え方が必要になります。
たとえば、環境ホルモンやダイオキシン。
これらの化学物質については、動物実験で発がん性などの有害作用が認められれば、実際のヒトでのデータが不十分でも、規制や削減などの対策が必要になることがあります。
この場合、「ヒトでの有害作用が十分に確認されるまで、特別な対策を講じないで放置する」という考え方は不適切です。
つまり、おなじ培養細胞や動物実験にもとづく情報でも、「有害作用」についての話であれば、それなりの注意を払うことが必要になります。
ただしこの場合でも、ただひとつの動物実験の結果にもとづいて、ある化学物質の有害作用を断定することはありません。
動物実験と、ヒトでの研究の結果をすべて考慮に入れて、判断するのがふつうです。
ステップ3学会発表か、論文報告か栄養補給剤や健康食品の広告を見ていると、どこかの学会で発表されたデータを引合いに出して、がん予防の効能を謳っているのを見かけることがあります。
「専門家の集まる学会で発表して認められた研究なのだから、きっと真実に違いない」そう考える向きもあるでしょう。
けれど、ちょっと待って頂きたいのです。
というのも、専門家が研究の価値を判断する際には、専門誌に論文として報告されたデータを見て評価するのが原則で、学会発表のみで論文になっていないデータを、評価の対象にすることは普通ないからです。
論文の原稿を専門誌に投稿すると、研究の信頼性や重要性をチェックするための審査があります。
具体的には、専門誌の編集部が、投稿された論文を、複数(2〜3人)の研究者に送って審査を依頼します。
依頼を受けた研究者は、投稿論文を読んで、その研究が専門誌の掲載に値するかどうかを評価します。
その上で、「掲載拒否」「大幅な修正の上再検討」「一部修正すれば掲載可能」「そのまま受理」といった判定を行い、どこをどう修正すべきか具体的なコメントをつけて、編集部に通知します。
編集部では、こうした専門家の判定をもとに論文掲載を受理するか拒否するかを決定し、論文を投稿した研究者に通知します。
「大幅な修正の上再検討」「一部修正すれば掲載可能」という判定の場合には、審査を行った研究者のコメントを匿名で知らせ、修正を求めます。
修正されて再投稿された原稿を読んで、編集部が最終的な判断を下します。
このようなプロセスをへて、ようやく専門誌に掲載されるのです。
臨床医学全体を代表するような権威のある専門誌の場合、投稿された論文のうち、審査を経て最終的に掲載されるのは10%以下に過ぎません。
基準がもっとゆるやかな専門誌でも、この割合はせいぜい50%程度です。
つまり、投稿論文の半分以上は、掲載を拒否されてしまうのです。
学会発表にも似たような審査はありますが、判定基準はずっとゆるやかなのがふつうです。
多くの日本の学会では、学会発表のために提出した原稿が拒否されることは、ほとんどありません。
環境ホルモンの対策を講ずる目的で、ある官庁が研究者を集めて開いた会議での話。
会議の事務局を務める担当者が、どこかの学会で発表された研究の資料をコピーして配り、出席者に説明しました。
すると、ある高名な研究者が、次のように発言しました。
「こういう出所のはっきりしないものを持ち出されても困る。
きちんと論文になった研究をもとに議論すべきである」この発言は、学者の権威主義のようにも聞こえますが、そうではありません。
審査を経て論文になったデータにもとづいて、環境ホルモンの健康影響を評価し対策を考えるという、科学者としての基本的な姿勢を表しているのです。
もちろん、学会発表が信頼に値しないというわけではありません。
最初に学会で発表された研究が、その後論文として専門誌に掲載されることは、いくらでもあります。
けれども、学会発表されたデータのうち、最終的にきちんとした論文の形で公表されるものの割合は、一般に考えられているよりもずっと少ないのが現実です。
ですから、健康情報の信頼性を見分ける際にも、論文として報告された研究を重視して判断することが大切です。
健康食品等の広告に、学会発表の成績が引用されているのを目にした時、私は、「きちんとした論文報告がされておらず、学会発表どまりのデータしかないのだから、情報の信頼性はあまり高くない」と、逆に割り引いて考えるようにしています。
ネットで見る医学専門誌の世界インターネットで見る医学専門誌の世界ここまでのステ。
プをクリアした健康情報は、「専門誌に論文として報告された、ヒトを対象とする研究」ということになります。
ところが、こうした研究であれば、どれもみな同じように信頼できるかというと、そうではありません。
まだまだ先があるのです。
ここまでのステップをクリアしたからといって、健康情報の「信頼性が十分に確認された」わけではありません。
むしろ、「その情報がまともな科学的判断に値する」という、出発点に立ったことを、意味しているに過ぎないのです。
ステップ4定評ある医学専門誌に掲載された論文か:「論文報告された、ヒトでの研究」の信頼性を判断するためには、2つの方法があります。
ひとつめは、「定評ある医学専門誌に掲載された論文か」どうかを確かめることです。
ここで説明する、「ステップ4」に相当します。
2つめは、その研究がどのような方法で行われているかを確認することです。
これは次の「ステップ5」にあたるので、次節で説明します。
「定評ある医学専門誌には、どんなものがあるか」一昔前であれば、こんなことを説明する意味は、ほとんどありませんでした。
どんな医学専門誌があるのかが分かっても、専門家でなければ、アクセスする手段がなかったからです。
けれども、最近のインターネットの発展によって、状況は劇的に変化しました。
今日では、ほとんどの医学専門誌がウェブサイトを開設し、その内容の一部を無料で公開しています。
がんと栄養について、人間集団を対象とする研究論文が比較的多く掲載される、代表的な専門誌の名前と、インターネット上のURLを示しています。
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